車選び:メーカーのこだわり~マツダ②「魂動デザイン」
今日は、魂動デザインについて書きます。現代のAIだとかデータサイエンスだとか、テクノロジーなどといった言葉の響きと、この「魂動」という言葉の響きは、明らかにベクトルが異なるような気がいたします。
「魂動」以外でも「人馬一体」などの表現がマツダではされており、昭和の時代を彷彿させるような、なんともヒューマンチックな感じがします。
車種紹介のサイトを見ていただけでは、マツダという会社の、なんとも人くさい面に触れることはなかったでしょう。この記事を書くにあたり、つぶさに同社のコーポレートサイトを見たからこそ、感じられたことでした。これまであまり親しみを感じていなかったのですが、その思想に触れると「結構、いいかも」と思っている自分がいます。
それではたま動デザインについて見ていきます。
デザインの概念は広い
デザインというとまず、思い浮かべるのはフロントのデザインです。マツダの車のフロントマスク、リヤのランプの処理は、共通していますよね。私は、あれが魂動デザインなのだと思っていました。ところが、デザインの概念は色彩や素材も含めた幅広いものなのです。
以下は同社のカラーデザイナー岡本氏の言葉です。
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「魂動デザイン以降のマツダは、“カラーも造形の一部”という思想を持ち、色と造形の一体表現を重視した開発に取り組んでいます。
なかでもソウルレッドは、魂動デザインを象徴する色として造りあげた色で、お客様から大きなご支持をいただいています」
「魂動デザインは、本物を極めるというマツダのクルマづくりを、造形面から支えるものです。 カラーもまた本物を表現していなくてはなりません」
私にとって、カラーでの本物表現とは、お客様との価値の共有。
それには色にどんなメッセージや思いを込めるのかが重要だと考えています。
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造形とカラーの関係については、“造形の美しさに心を動かす感情を与えること”が、カラーデザインに求められる役割だといいます。
そしてデザインも、もちろんビジョンと無関係ではありません。
マツダデザインが追い続けるものは、「それは“心揺さぶる美しさ”。ひと目で心を奪われるような美しさを、クルマというプロダクトで表現」することだといいます。
それはなぜか。その想いの底流にあるのは、「クルマは単なる道具ではなく、乗るほどに愛着が深まる美しい存在であるべきだ。なぜなら、その美しさは人々の生活や感性を豊かにするものだから」だといいます。
これは同社のビジョン、「カーライフを通じて人生の輝きを人々に提供します」に通じます。
カラーデザインには素材も含む
マツダのデザインは、前述のように感情=情緒的価値に関心を向けています。「形と色や素材を一体で創ることで、心を高ぶらせたり、安らぎを感じたり、凛とした気持ちにしたり、そういう感情をプラスしていくのが、カラーデザインの役割」と考えています。
素材にこだわった実例を挙げます。とても長いストーリーなので、完結にまとめてみました。
・人間の繊細な感性を反映したデザインを施すことで、より人間の感情に訴えかける存在にクルマはなれるのではと考えた
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・そのために新たに“うつろいや繊細さ”という要素をとりいれようと考えた
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・日本人が落ち着きや安らぎを感じるのはどんな空間か
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・日本の伝統的な木造建築(木という素材がもつ温かみ、経年によって深みを増していく色味)
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そんな温かみや深みを想起させる新しい内装色を創ることが、落ち着きや安らぎを感じさせることにつながる
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“オリエンタルブラウン”誕生
ということで、このオリエンタルブラウンが誕生した経緯はわかったのですが、どこに採用されたのかは、触れられていません。
調べてみるとアテンザの2018年のマイナーチェンジにおいて、インテリアはフルモデルチェンジ並みの変更を行い、そこにこのオリエンタルブラウンという色が初めて取り入れられました。
また合わせて、本杢(もくめ)パネルが採用されました。これは木目「調」ではなく、本当の樹木を素材にしました。使われたのは「本杢の“栓(せん)”という素材」ということです。
この栓についてもサイトでは説明がありました。
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「栓は日本全土に分布する木で、古来から和太鼓の材料などに使われてきました。
木目が力強く、凛とした表情が美しい木材です。
色味もオリエンタルブラウンと同調させ、時の流れを経て深みを増したような印象に仕上げました
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本杢の“栓”が内装に使われているのは、ほかにCX-5の最上級グレード、25T Exclusive Mode SKYACTIV-G 2.5T 2WD(6EC-AT)¥3,795,000 (消費税込)、4WD(6EC-AT)¥4,026,000 (消費税込)です。
(調べたところ、CX-8でもオプション設定があるように書いてあるサイトもありましたが、同車種の公式サイトからは確認できませんでした)。
マツダのこだわりはまだ続きます。次に考えたテーマが「うつろいの美」だといいます。具体的には「朝もやが山あいに流れ、一瞬として同じ風景がないような場面を見た時、人はその瞬間瞬間の美しさに心奪われます。この美しさが、うつろいの美だと考えます」というのです。
このレベルの情緒になってくると無骨な私としては、ついていくのがやっとです。
そしてその美しさを表現した答えが、インストルメントパネルやドアトリムの素材として採用した“ウルトラスエード®ヌー”なのです。このウルトラスエードというのは東レ株式会社の登録商標です。
ウルトラスエード®ヌーについては以下の記載がありました。
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ウルトラスエード®ヌーは、スエードならではの毛足の細かいムラ感と、表面加工の絶妙なムラ感が重なることで、自然で不均一な表情を生み出します。
これに光を当てながら動かすと、光の受け方が変化するのです。
ドアを開けると、光が差し込む角度によってキラキラと輝きながら光が動いていく。その情景の中に、私たちが目指したうつろいの美が実現できたように思います
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このほかにも「緊張感」「不完全の美」ということにも触れられています。興味がある方はマツダの企業サイトのデザインのページをご覧になってみてください。
デザインへの強いこだわり
こうしてみていくと、デザインについてかなりのページを割いて、デザイナーの語りが掲載されています。コーポレートサイトなので、思想や哲学を語ることを趣旨としているためか、それぞれのデザインがどの車種のどのグレードに標準なのかオプションなのかの記載はありませんでした。かなりの上級グレードでないと、お目にかかれないのかなという印象でした。
ただ、ドライバーや乗員にどのような室内、インテリアを提供しようとしているかについての、こだわりの一端は十分に理解できたので、インテリアのみならず、手クステリアを含めて、マツダの魂動デザインというのはフロントグリルだけではなく、トータルでの表現、デザインなのだということが、わかりました。
次回はマツダがいう「人馬一体」の思想について探っていきます。こちらは車種、グレード関係なく、マツダならではの考えが一貫しています。どうぞお楽しみに。